Winery通信 2016 winter Vol.58
以前紹介した、ワインをコップで楽しむイベント『コップの会』。2014年3月仙台市で開催された時にその話が「決まったらしい」(談:岸平典子氏)。
岸平社長「コップの会終了後、打ち上げで気分よく飲んでいたら、一緒に来ていた酒井さん(酒井ワイナリー)と佐藤さん(紫波フルーツパーク)に、『造るのは典子さんに決まったから』と言われまして。話を聞いてなかったので、ナニカと問うたら、東北六県の葡萄でワインを造るぞ!と。」
それが、『ヴァン・ド・ミチノク』の始まりだった。仏国の著名な醸造家ティエリー・ピュズラとオリヴィエ・ボノームが、大震災のあった年に東北を想い『キュヴェ東北』と名付けたワインを醸造した。2014年日本に届いたそのワインはこの日を忘れないために、3月11日全国のビストロ等で一斉に抜栓された。仙台市では『ブラッスリーノート』当時(現『バトン』)の板垣卓也さんが主催し、その数日後同じ会場でコップの会が開かれていたのだ。
岸平社長「ところが翌年の『キュヴェ東北』は諸事情により入荷しないと板垣さんに聞き、んだら東北葡萄でワインを造るべし!となったのです。」
板垣さんを中心に、飲食店・酒販店・醸造家が仲間のツテを頼りに原料を探し運搬した。
岸平社長「葡萄の確保から運搬、ラベル貼り等は皆手弁当。ワイン関係者が一年で最も忙しい時期に、休日返上で秋田・岩手のワイナリーから葡萄を持って走って来る。人の気持ちってすごいなと思いますね。」
タケダもタンク1個をミチノクにあてがうので、その分自社製品は後回しになる。
岸平社長「青森は飲食店の人とお客様が葡萄を運んでくれました。収穫済みの山葡萄が待っているつもりで行ったら山に案内され"採っていって"。」
水さえ待たず、あるのは葡萄だけ。飢えや虫と闘いながら300㎏収穫し、そのまま山形に。タケダに到着したのは21時。『朝8時から葡萄しか口にしていない』とクタクタになりながら届けてくれた。
岸平社長「ミチノクには①東北六県の葡萄、②野生酵母、③無添加の3つの決まりがあります。初めての品種、しかも混醸(全品種を合わせて醸造)は初挑戦。難しかった。失敗が許されない酒ですから緊張しますね。」
2014年秋に醸造し2015年3月にリリースしたのが第一回。今年、三回目を仕込んだ。
岸平社長「近頃編み出した作戦は毎日声がけすることです、発酵中の酒に。『がんばれ』とか『今日は調子いいな』とか。スタッフにもお願いして実践してもらっているんだけど、若者はやってくれないなあ。」
たくさんの人の想いが詰まった『vin de MICHINOKU 2016』は、2017年3月11日に抜栓される。
※「vin de MICHINOKU」に関するお問い合わせは、バトン(板垣代表)batons@macuisine2002.comへお願いいたします。
菅井由美子(すがいゆみこ)
山形市在住/弊社社長、岸平の高校時代からの友人。成人から高校生の3人の子供の母親。葡萄収穫をはじめ、ワイナリーでのいろいろな仕事の経験がある。それを活かしつつ、タケダワイナリーの今の様子をレポートタッチでお伝えしています。